「マイクはなくてけっこうです」?--アクセスしやすい学習環境を作るためにできること
2020年01月27日(月)
こんにちは、ジェンダー社会科学専攻のジャニスです。
以前情報保障のためのユニバーサルデザインについてご紹介したことがありますが、今回も学びの場でのバリアを取り除く取り組みを紹介します。学びの場から明示的にもそうでなくても排除されてきた人がいることはすでに知られてきました。そうした問題に対し、とくに教育や研究の場でのアクセシビリティを向上させる方法はかなり蓄積されてきています。
こうした配慮は一般公開の講演会や研究会を企画する際の義務としてだけではなく、特別な役割を担う場面でなくても、直接の知り合いに困っている人がいなくても、自分自身は困らなくても、すでに困りごとに直面している人がいることや、どうすれば助かるのかを分かっているのなら、そのことを知った人から実践して広めていくことにしましょう。
一般的な「会議・会合・イベント等を開催するときの配慮」については、千葉県がウェブ上でも公開している「障害のある人に対する情報保障のためのガイドライン」が参考になります。移動・安全確保や、開催前の準備、資料作成、席配置や会場設営の工夫について、主催者ができる配慮とそのためのコミュニケーションの必要性が書かれています。
このように場面ごとに書かれているようなページであっても障害者への配慮を説くサイトの多くは、障害の種類ごと、その特性に応じた配慮の方法が挙げられていることが多いようです。東京大学のバリアフリー支援室がまとめているサポートをする人向けのページもそうした構成になっています。
今回紹介したいのは、こうした異なる障害の種類に応じたいわば個別対応の前に、「ふつう」で「当然」とされている基準をより多くの人たちにとってアクセスできるものに変える工夫です。これはいわゆる「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」の考え方に近いと思います。
たとえばオハイオ州立大学のComposing Access Projectというサイトには、学会やワークショップなどの学術イベントを、障害をもつ人たちを含めて多くの人により参加しやすくするヒントが集められています。もともとは「あなたのプレゼンテーションをよりアクセシブルにするには」という1ページだけのサイトから始まって、知恵が蓄積されてきたものだそう。
比較的すぐにできる工夫として、マイクを使う、というものがあります。自分自身が話すとき「マイクはなくて大丈夫です」と断った経験のある人は多いと思います。でもそういうとき、集音・拡声などの機能があるマイクを使わないと困る人がいることはあまり想定されていないのではないでしょうか。このページで紹介されている解説イラストは、「マイクを使ってください」と言われたときの、6つのダメな拒否の場面が描かれています。
どうでしょう、こんな場面に出くわしたことはないでしょうか? かくゆうわたし自身、イベントの司会をしていて「ノートテイクの必要な人はいますか?」と声で呼びかけて顰蹙を買ったことがあります。(ノートテイクは音声では情報伝達が保障できないときに使われる手法ですから、この尋ね方ではそうした用意があることを必要な人に知らせられません。)
他にもプレゼンで使用する画像やグラフはそれ自体を言葉で描写し説明する、配布資料を用意しそのうちの何部かは大きめの文字のものを作っておく(未公開にしておきたい内容なら終了後集めればよい)、資料配布は参加者に取りに来させるのでなくその人のところに届くように配るなど、分科会や研究会といった機会にすぐに実践できそうな工夫が紹介されています。そのなかのいくつかはすでに実践済みかもしれません。
英語ですが動画や文章といった複数のメディアで解説されていますので、時間のあるときにぜひ一度ごらんになってみてください。
またここで取り上げた、バリアフリーや合理的配慮にかんする議論に関心のある方は、 中邑賢龍、福島智 編『バリアフリー・コンフリクト : 争われる身体と共生のゆくえ』(2012、東京大学出版会) [369/B21 場所は社会学コース] や 川島聡ほか著 『合理的配慮 : 対話を開く, 対話が拓く』(2016、有斐閣) [369/Ka97 場所は一般図書と生活社会科学講座] をぜひ。どちらもお茶大図書館の蔵書にあります。
#ジャニス
以前情報保障のためのユニバーサルデザインについてご紹介したことがありますが、今回も学びの場でのバリアを取り除く取り組みを紹介します。学びの場から明示的にもそうでなくても排除されてきた人がいることはすでに知られてきました。そうした問題に対し、とくに教育や研究の場でのアクセシビリティを向上させる方法はかなり蓄積されてきています。
こうした配慮は一般公開の講演会や研究会を企画する際の義務としてだけではなく、特別な役割を担う場面でなくても、直接の知り合いに困っている人がいなくても、自分自身は困らなくても、すでに困りごとに直面している人がいることや、どうすれば助かるのかを分かっているのなら、そのことを知った人から実践して広めていくことにしましょう。
一般的な「会議・会合・イベント等を開催するときの配慮」については、千葉県がウェブ上でも公開している「障害のある人に対する情報保障のためのガイドライン」が参考になります。移動・安全確保や、開催前の準備、資料作成、席配置や会場設営の工夫について、主催者ができる配慮とそのためのコミュニケーションの必要性が書かれています。
このように場面ごとに書かれているようなページであっても障害者への配慮を説くサイトの多くは、障害の種類ごと、その特性に応じた配慮の方法が挙げられていることが多いようです。東京大学のバリアフリー支援室がまとめているサポートをする人向けのページもそうした構成になっています。
今回紹介したいのは、こうした異なる障害の種類に応じたいわば個別対応の前に、「ふつう」で「当然」とされている基準をより多くの人たちにとってアクセスできるものに変える工夫です。これはいわゆる「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」の考え方に近いと思います。
たとえばオハイオ州立大学のComposing Access Projectというサイトには、学会やワークショップなどの学術イベントを、障害をもつ人たちを含めて多くの人により参加しやすくするヒントが集められています。もともとは「あなたのプレゼンテーションをよりアクセシブルにするには」という1ページだけのサイトから始まって、知恵が蓄積されてきたものだそう。
比較的すぐにできる工夫として、マイクを使う、というものがあります。自分自身が話すとき「マイクはなくて大丈夫です」と断った経験のある人は多いと思います。でもそういうとき、集音・拡声などの機能があるマイクを使わないと困る人がいることはあまり想定されていないのではないでしょうか。このページで紹介されている解説イラストは、「マイクを使ってください」と言われたときの、6つのダメな拒否の場面が描かれています。
場面1「(会場を見回して)このなかに耳の聞こえない人はいないみたいですね〜」
(そんなの…見て分かるわけないですよ)
場面2「あら、コードが届かないみたい!」
(コードが届かないなら届く場所に移動してはどうでしょう)
場面3「自分は軍人一家で育ったものですから、声が大きいんですよ!」
(話し手の声が大きいかどうかはマイクの必要性とはべつ)
場面4「わたしにはちょっと男性的な形象ですので〜」
(面白いジョークですねー(棒))
場面5「ありがとう、でももう終わりますから、ははは!」
(いやいやそれも発言ですから、マイク使ってください)
場面6「みなさーん、わたしの声は聞こえますね?」
(えーっと、あの人何言ってるんですか? あなたは聞こえました?)
どうでしょう、こんな場面に出くわしたことはないでしょうか? かくゆうわたし自身、イベントの司会をしていて「ノートテイクの必要な人はいますか?」と声で呼びかけて顰蹙を買ったことがあります。(ノートテイクは音声では情報伝達が保障できないときに使われる手法ですから、この尋ね方ではそうした用意があることを必要な人に知らせられません。)
他にもプレゼンで使用する画像やグラフはそれ自体を言葉で描写し説明する、配布資料を用意しそのうちの何部かは大きめの文字のものを作っておく(未公開にしておきたい内容なら終了後集めればよい)、資料配布は参加者に取りに来させるのでなくその人のところに届くように配るなど、分科会や研究会といった機会にすぐに実践できそうな工夫が紹介されています。そのなかのいくつかはすでに実践済みかもしれません。
英語ですが動画や文章といった複数のメディアで解説されていますので、時間のあるときにぜひ一度ごらんになってみてください。
またここで取り上げた、バリアフリーや合理的配慮にかんする議論に関心のある方は、 中邑賢龍、福島智 編『バリアフリー・コンフリクト : 争われる身体と共生のゆくえ』(2012、東京大学出版会) [369/B21 場所は社会学コース] や 川島聡ほか著 『合理的配慮 : 対話を開く, 対話が拓く』(2016、有斐閣) [369/Ka97 場所は一般図書と生活社会科学講座] をぜひ。どちらもお茶大図書館の蔵書にあります。
#ジャニス