初歩的なレポート課題を書く(3)―まとめ

20180130日(火)
前回は、主観的な文章と、論理的な文章の目的の違いについて考えました。
今まで比べてきた二つのタイプの文章には大きな違いがあります。
作業工程の初期段階で「相対化」を行わなければいけないかどうかが、特に大きく異なるところでしょう。

しかし、主観的な文章にしろ、論理的な文章にしろ、実は文章構想の起点となる部分は同じです。
それは、文章のテーマを「発想する」ということです。
主観的な感性で、今関心を抱いていることやどうしても注目したいことを掴みとり、次に、言葉にするのです。
文章の論理性が強くなればなるほど、「言葉にする」段階で、より一般的な概念にあてはめたり、他の事柄と比較したりすることで相対化を行う必要性が強くなるでしょう。

レポートを書くにあたっては、見聞きしたあらゆる事柄からテーマをキャッチする発想力と、既存の言葉を用いてある概念の中に組み込んだりして「発想」を相対化する力の両方が必要となると言えます。
そして、有意義な課題設定につながる「発想」を多様にできるか、様々な「発想」の中からその時に適切なものを絞り込むことができるのか。
これらは、次の段階である相対化したり論理的にまとめたりする作業がスムーズに進むかにも関わる大変重要なことです。


ですから、初歩的なレポート課題やコメントシートなどには、発想のトレーニングとして主観的な姿勢を大事にするものがあるのだと、私は考えています。
一般的には、初歩的な段階では、まず、論理的な文章の枠組みを身に着ける必要があると思われます。
しかし、その他に、発想の柔軟さが枠組みに制限されることのないようバランスを取りながら、自分なりの発想を持つこともできなければならないと考えます。

レポート課題の指定が変則的で、書き方のマニュアルにも当てはまらずに困る場合は、まず、その課題が、文章や思考トレーニングのどの地点に当たり、特に何の力を強化しようとしているものなのかを考えてみるとよいでしょう。
発想なのか、それとも発想の概念化なのか、立場の相対化なのか、調査の進め方なのか、結果や検証の整理の仕方なのかによって、課題への取り組み方は変わります。
一連の作業のデモンストレーションを試みよ、という場合もあるかもしれません。

考えた上で疑問に思ったことは、担当の先生にお聞きしてみるとよいと思います。
図書館の平日開館日には、LALAデスクでもご相談を受け付けています。

なお、これまで述べてきたこと以外に、レポート課題では、作業を通して「書き方のルール」を身に着けることが求められています。こういった「ルール」については、当ブログではマーヤさんが主にまとめてくださっている他、LALA文庫の本で解決する場合も多いです。
ぜひ参考になさってください。

#みあ








初歩的なレポートを書く(2)ー立場を相対化させる

20180123日(火)
前回は、小論文と読書感想文の性質を比べながら、レポートに求められる要素を考えました。

・小論文で課されるような、「論理的思考に基づいて、テーマに沿った、説得力のある文章を仕上げること」
・読書感想文で課されるような、「柔軟な視点を持ち、自分なりの思索を深め、課題に対してオリジナリティのある向き合い方をしてきたことを文章で表現すること」

この両方がレポートでは必要とされ、出発点は柔軟な視点や自分なりの思索、ゴールは、課題に対する論理的な追究と文章化とまとめられると述べました。

それでは、「柔軟な視点を持って思索すること」と、「課題に対して論理的に追究すること」の違いはどこにあるのでしょうか?
それは、一言で言えば、「自分の立場を相対化しているかどうか」だと思っています。

感想は、自分の感じたことを軸として展開できるものです。ですから、その文章の中で、自分自身の視点が絶対化されていて良いのです。
しかし、論理的な文章で自分の視点を述べる際には、具体的な根拠を示して立場を相対化する必要があります。
そうしなければ、客観的な見解としての説得力がないからです。

感想文が、中で展開される書き手の世界観に読み手を引き込み、共鳴させることを目的とする文章だとすると、
小論文などの論理的な文章は、自分の視点を読み手を含む外側の世界に投げ入れ、外側の世界にある具体的な事柄と関連づける文章と言えます。
別の事象との関連づけを行うことによって、自分の視点が自分の視点だけではなくなり、普遍性を持った事柄として読み手に認識される可能性が高まるのです。

もちろん、感想文などの主観的な文章でも、ある程度の論理的な組み立ては成されることと思います。
秩序がなければ文章として内容のまとまりがなくなり、読み手が理解できるものではなくなるからです。
しかし、多少の飛躍や、他者には想像できないような独自の関連づけが文章の味として評価されることもあるのが主観的な文章の特徴でしょう。

以上の事柄を踏まえて、初歩的なレポート課題に取り組む時に考えたいことを次回にまとめたいと思います。

#みあ

最近気になった本

20180116日(火)
こんにちは。ゆ~りです。

年が明けて晴れた日が続き,気持ちのよい年始となりましたね!
しかし,一段と寒気が増している気がします。みなさん外出するときは暖かくして体調管理には十分気を付けてくださいね。

ところで、今回ご紹介したい本は、アメリカのフリー・ジャーナリストのポール・タフ氏が書いた『Helping Children Succeed:私たちは子どもに何ができるのか-非認知能力を育み、格差に挑む』(英治出版)です。著者は、子供の貧困と教育政策に関する執筆や講演活動を多数行っています。
私は、海外の学校中退をする子どもたちの家庭的背景の研究を通して、家庭の経済的な貧しさも重要な学校継続を阻害する要因だけれども、それよりも何よりも親子間のコミュニケーション、躾の仕方、親子間で愛着が感じられているかどうかの方が、子どもの健全な発達・発育、学ぶ意欲、物事を継続する力などに重要なのではないかと考えていました。この本は、アメリカの最新の研究結果をふんだんに取り入れ、こういった非認知的能力―著者の言う「やりぬく力」「自制心」「意欲」「社会的知性」「感謝の気持ち」「オプティミズム」「好奇心」―の重要性について言及し、非認知的能力を育てる学校現場の取り組みを紹介しています。

2013年に公立学校に通う「低所得層」の生徒が過半数を超えたアメリカの現状と日本の現状とは違いますが、例えばテストの点数に代表されるような目に見える能力とは別に、内面にもつ個々人の性質や性格のようなものをどのように伸ばしていくのか、またそれを評価する方法はあるのかにも言及しています。

一番大切なことは、「三つ子の魂百まで」ということわざ通り、こういった非認知的能力は子どもの幼いころの「環境」―それは周りの人との人間関係を含む―で決定してしまうということです。そして著者は、心理学や神経科学など様々な研究者らの結論を紹介し、環境による影響の中で子どもの発達を最も左右するのはストレスであると明らかにしています。逆境の中で育った子どもは、彼らが幼いほど体内の複雑なストレス反応ネットワークに強い影響を及ぼし、周りのトラブルに備えるためすぐに「闘争・逃走反応」とも言われる脅威検知システムが作動するようになると説明しています。それは危険な環境では利点はあるが、長期になると様々な免疫系の機能障害や脳の発達に影響を及ぼし,感情面や認知面での制御能力の発達を阻害すると述べています。

低所得層の人々が住む環境が、いかに人間にとってストレスをもたらす因子が多いかこういったことからもうかがい知ることができますが、それを学校の学習・生活環境において,教師との関わりの中で少しずつ改善していく取り組みをアメリカでは始めています。
お茶大の生協でも販売されていましたので、ぜひご一読ください!
近日中にお茶大図書館にも入る予定です。
☆図書館に入りました!(2018.2.15)
  図書館(一般図書) 371.4/To75
OPAC検索結果 → http://www.lib.ocha.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB24456348

格差社会において、私たちは何ができるのかを改めて考えさせられる一冊となると感じています!

#ゆ〜り

初歩的なレポート課題を書く(1)―小論文・読書感想文と比べてみる

20180104日(木)
あけましておめでとうございます。
2018年も、LALAデスクをどうぞよろしくお願いいたします。

☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆
こんにちは。
これから、「マニュアル本を読んでも書き方に迷う」タイプのレポートの書き方を考えていきたいと思います。
いろいろなタイプがありますが、今回は、初学者向けの課題を想定して書き進める予定です。

レポート課題、と一口に言っても、字数・書式・テーマなどは様々ですよね。
指定された形式や書き方が変則的だった場合や、課題の自由度が高い場合には、どうやって書いていったらいいのか戸惑うこともあるでしょう。LALA文庫には、レポートの書き方を解説した本がたくさんありますが、それらの内容をどう応用して実際にレポートを仕上げていけばよいのか、難しいこともあるでしょう。

特に「レポートを書くこと」や「自分の考えを整理すること」自体を学ぶ段階で出る課題は、一般にイメージされるかっちりした「レポート」とは異なる場合も多いと思います。
読む文献が指定されていたり、専門書でなくてもよかったり、指定字数が少なかったり、論理的に掘り下げるというよりも自分自身が何を感じてどう思ったかを記すことが求められたり…。
高校までの作文の類とは確かに違いますが、入門編として、取り組みやすい課題の出され方がされていると思います。しかし、だからこそ「レポートの書き方マニュアル」にぴったり当てはまらずに、当惑してしまうのではないでしょうか。

高校までの作文の類と、初歩的、あるいは比較的簡潔なレポート課題を比べてみましょう。
作文にもいろいろありますが、小論文や読書感想文は、皆さん一度は触れたことがあってわかりやすいと思います。
両方とも、一定の「書き方」が決まっているものですが、小論文と感想文とでは「正解」が明確かどうかが違います。
小論文は「ここまで掘り下げられたらよく書けている」「この点を外していたらきちんと書けているとはいえない」といった判断基準がそれなりにはっきりありますが、読書感想文の場合、かなりあいまいです。
それは、小論文が論理的思考を養うことを目指すものであるのに対し、感想文は、特定の対象から想像を広げ、感性や思索など情操を育むためのものだからではないかと思います。

レポート類、特に初歩的な課題は、この両者の特性を折衷したような性質があるように私は感じています。

例えば小論文と比べれば、小論文よりもはるかに、「正解がない」あるいは、「正解の幅が広い」、あるいは、「正解と不正解の境界があいまい」なのがレポートです。小論文で問われる「論理的思考」には、「模範解答例」という教育的に定められた一応のゴールがあります。与えられた枠の中で、決められた通過点をクリアして書くことが、オリジナリティや自分らしさを主張するよりも先に大切です。
具体的には、課題に合った主題提示と、主題の内容を裏付ける根拠を述べることができているか、根拠に説得力があるか、発展性のある結論が示されているか、などです。
オリジナリティや自分らしさはプラスアルファともいえる要素で、与えられた枠にしっかり収まる形で展開される必要があります。

読書感想文は、本の内容に対してどう感じたのか、何を考えたのか、自分のどのような体験が想起されたのかなど、自分自身が本によって受けた影響について、体験的に書くものです。一般的な「正解」はありません。
もちろん、一定の説得力を持たせるために、文章に論理的な組み立てがあるのは望ましいことですが、まず大切なのは、自分自身の主観的な体験を掘り下げて整理して書くことです。本の批評などではなく、読書によってどのように成長期にある自己の内面が揺さぶられ、どのように変化が起こったのかを生き生きと書き出すことが期待されています。
もし読書感想文の質を問う場合に判断基準があるとすれば、ある特定の本を深く読み込んだ時に、誰もが至るであろう思索の地点のようなものに、辿り着くかどうか、とでもいったところでしょうか。

レポートは、「論理的な思考」やそれに伴う「説得力」が重視されるため、読書感想文よりも、書き出すことが求められている内容の範囲は限定的であると言えます。しかし、何かにとらわれることのない自分なりの視点を持ち、思索を深めることで「自分らしさ」や「オリジナリティ」を出すことが必要であることは、読書感想文と共通するものだと思います。

長くなってしまいましたが、レポートでは、

・小論文で課されるような、「論理的思考に基づいて、テーマに沿った、説得力のある文章を仕上げること」
・読書感想文で課されるような、「柔軟な視点を持ち、自分なりの思索を深め、課題に対してオリジナリティのある向き合い方をしてきたことを文章で表現すること」


この両方が求められるのではないかと考えます。

出発点は、柔軟な視点や自分なりの思索。ゴールは、課題に対する論理的な追究と文章化、とまとめることも可能かもしれません。

続きます。

#みあ