「学振」申請書の書き方について -文系の体験談-(後編)

20210223日(火)
こんにちは
ここ2、3日は春の暖かさですが、
明日からまた寒いそうだと聞いて怯えている林です

今回は、「学振」申請書の書き方の後編について、書いていこうと思います。


-内容-

① 作成スケジュールについて
② 私が悩んだ点
・文系はどうやって図表を入れる?
・専門分野の常識や用語の解説はどの程度すべき?
↑ここまで前半(昨日up)の記事内容

③ レイアウトのコツ
④ 業績欄について
⑤ 参考図書




③ レイアウトのコツ

インターネットで検索してみると、
過去の学振申請書をアップロードしている親切な先輩たちが沢山います。
文系理系関わらず(またPD,科研費申請書でも)、出来るだけ多くの申請書を見て、
その良いところ・悪いところを、自分の中で整理する
作業が最も有効です。
⑤で紹介するような書籍であれば、予め複数の申請書例がまとめられているので楽ですね。

中でも、私が実際に取り入れたレイアウトのコツをご紹介します。


(1) 余白、フォント、図のバランス

審査員は1日に少なくとも数十人分の申請書に目を通すと言われています。
その中で印象に残るためには、関心を持って読んでもらう必要があります。
つまり、レイアウトは「目を通す気にさせる」ために重要なのです。

余白:余白が多すぎると熱量が伝わりにくくなりますが、
   見辛いほど文字を詰めないようにしました。
   項目間はもちろん、各行の文字数の調整も意外と効果的です。
   1行びっしり書いたら次の行はうまく半分以下の文字数で終わらせる、などです。


フォント:明朝かゴシック体が推奨されているようです(読みやすいため?)。
     私は両方使いました。
     基本的な地の文は「明朝体」、太字のみゴシック体を用いました。
     明朝体は太字にすると売りであるスマートな印象がなくなり、
     潰れた印象になると感じた為です。
     また、「太字/下線 = 特に重要な部分=ゴシック体」と把握してもらうこと
     で、「ゴシック体部分を拾い読みしていけば良いのね」と、了解してもらう効果があります。

     ただし、使ったのはその二種類です(英字はCentury)。
     あまり字体を変えると乱れた印象を与えます。


図:前編で例示したように、内容を分かりやすくする為に図表は入れることをお勧めします。
  ただ、どの程度入れるかは全体のバランスを見ながら考えるのが良いかと思います。
  私の場合、「現在までの研究状況」各ページに比較的小さい図をひとつずつ、
  「これからの研究計画」の 研究方法箇所にひとつ、計3つを配置しました。
  いずれも、審査員に「わかってもらわないと困る」部分です。


(2) 箇条書きの活用

箇条書きに用いる文字記号としては、「数字」「○□などの記号」「アルファベットなどの文字」が挙げられます。
それぞれが持つ機能を意識して、レイアウトを組み立てていきます。


「数字」:数字の視覚的な特徴は、「いくつあるか」を把握させるところです。
     例えば、「この研究の独創的な点」を羅列する際に、(1)...(3)としておくと、
     一瞬で「3点読まないといけないんだな」と理解してもらえます。

「○□などの記号」:段落やセクションの区切りに有効です。
          順序や序列をつけなくても良い並列の項目
         (「研究の背景」「研究目的」「研究方法」など)
          には、余計な情報を付与しない形記号が適していると考えました。

「アルファベット」:私は、対応させたい箇所を示す為に使いました。
          例えば、「解決すべき問題点」と「研究方法」では、
          両方の内容の対応する箇所に同じアルファベットを振りました。


例として、実際の申請書の一部です。
アルファベットと、⬛︎の使用例です。
数字はこのページで使っておらず、黒塗りならぬ白塗りで申し訳ないですが・・・
全ページ閲覧希望の方は個人でお知らせください。


林223



④ 業績欄について


分野によって違いがあると思うのですが、
私の分野(音楽学)では、D1〜D2の時点で沢山の業績を持っている人はあまり多くありません。
一般的にも、文系は理系と比べて、学生のうちは業績が少ないのではないかと思います。

いわゆる「業績欄」は申請書の終わりの方にあり、研究者としての資質を判断してもらう材料となります。
書けるのは、学術雑誌掲載の論文・著書、商業誌における解説・総説、国際学会発表、国内学会発表、特許、その他(奨学金や受賞歴はここ)です。

私もあまり業績が多い方では無かったので、過去の例などを見て「う〜ん・・・」と思っていたのですが、
去年から書き方が変更されました!
新しい版では、
「(業績は)網羅的に記述するのではなく、研究課題の実行可能性を説明する上で、その根拠となる文献等の主要なものを適宜引用して述べてください」とあります。

つまり、これまで自分が述べてきた研究課題や研究計画を、遂行できる能力が自分にあるという証拠として、業績を紹介しなさいということです。
数が多ければ良いわけではなく、あくまで自分の研究計画に関連づけて述べよということですので、あまり業績数がない人にとってはむしろ有難い改変と言えます。

昨年度からの改変だったので正解は正直分かりませんが、
私は、欄の上1/3くらいにこれまでの業績についての文章を書き、該当する業績は文章中の(括弧)内に数字で記しました。その後、残りの2/3で、数字で示した業績の詳細情報を註のように記しました。

(例)
文章:「(前略)また、申請者は昨年1年間で、新しい研究課題を2つ設定し、それぞれについて、論文や口頭発表の形で結果を出している(④⑤⑥)。」

業績詳細情報:
④林いのり、「論文名」、『掲載論文集』(査読有り、発行予定日)
⑤林いのり、「解説タイトル」、・・・・
⑥林いのり、「学会発表題目」、・・・・


個人的に気をつけたのは、自分のアピールポイントとして別欄に記述した内容と、
分かりやすく一致する業績を選んで記す
ことです。
私は、特に「演奏・教育現場への還元」をアピールしていた為、
プログラム解説や教育活動の業績も記しました。


⑤ 参考図書について

すっかり長くなってしまいましたが、
最後に参考図書を紹介したいと思います


(1) 毎年LALA文庫で大人気の「How to の決定版」


377.7/O69「学振申請書の書き方とコツ : DC/PD獲得を目指す若者へ」 大上雅史著

私もかなり参考にしました。特に、レイアウト部分は例示が豊富で、自分にあったものを見つけることができます。
申請書例は、ご本人が理系ということもあり理系のものが多いです。


(2) 申請書において大事なことがわかる「科研費申請書の例」

「科研費獲得の方法とコツ ―実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略―改訂第7版」児島将康著

こちらも豊富な例示で参考になりました。
改訂を重ねている為、情報も新しいのが魅力です。
eブックなので、家から読めるところも良いですね!


インターネットで検索して読めるものは沢山ありますので、
自分と専門の近い先輩が書いたものを見てみましょう。
もちろん、研究室など身近に経験者の先輩がいれば、
アドバイスを頂くのが手っ取り早いかもしれません。

2021年度、LALAの相談業務が再開しましたらぜひLALAにもご相談くださいね。

最後に、こんなに長々と書いてきましたが、
もちろん!最も大切なのは「研究内容の面白さと社会的な意義」に尽きます。
レイアウトなどを優先するあまり、研究の最も大事な部分についての記述を削ったりしないよう、
できれば周囲の人の客観的な目で確認してもらいながら、
最善の申請書を完成させましょう!


忙しい年度末/新学期に、忘れられない思い出になる、かも・・・・



     
     


「学振」申請書の書き方について -文系の体験談-

20210222日(月)
こんにちは、LALAの林です。
あっという間に2月も半ば・・・ 皆さんいかがお過ごしですか?

今日は、おそらく「旬」な話題、
日本学術振興会特別研究員の申請書作成がテーマです。
ちょうど昨年の今頃、私は申請書を作成すべく参考書や体験談を読み漁っていました。
そこで感じたのは、「文系の例が少ない・・・ということ。

色々な方の情報を参考にしながら作成しましたが、
「もし通ったら申請経験を共有しよう・・・」と思いました。
幸い面接免除採用となったため、この記事を書いています。
以下を念頭に、参考にして頂ければ幸いです。

・一般的なことを書いていますが、林が申請したのはDC2です
・「文系の体験談の1つ」として参考にしていただけると幸いです
・申請書のフォーマットや記入事項は年によって異なる可能性があります



-内容-
① 作成スケジュールについて
② 私が悩んだ点
  ・文系はどうやって図表を入れる?
  ・専門分野の常識や用語の解説はどの程度すべき?

↓ここから後半(近日up予定)の記事へ
③ レイアウトのコツ
④ 業績欄について
⑤ 参考図書



① 作成スケジュールについて

毎年の提出スケジュールは学振HPで見ることができますが、
大切なのは、学内締切の確認です。
来年度は5/17だそうです。(https://www.ocha.ac.jp/research/menu/jsps/special_researchers.html

学振の申請書は全7ページほどで、昨年の項目は以下でした。

・現在までの研究状況
・これからの研究計画:
(1)研究の背景 (2)研究目的・内容 (3)研究の特色・独創的な点
(4)研究計画 (5)人権の保護及び法令等の遵守への対応
・研究遂行能力
・研究者を志望する動機、目指す研究者像、アピールポイント等

・・・つまり、一稿仕上げるだけでも時間がかかります。
そして、初稿で仕上がることなどまずありません。

最低でも複数回、指導教授や先輩の添削を受けたいと考え、
逆算していくと・・・

5/17学内締め切り → 5/11申請サイト入力開始? → 5月上旬には2〜3稿を仕上げたい
→ 4月に初稿を完成させ添削を受ける →いつ書き始める?

私は3月に作成を開始し、4/5に初稿を完成させました。
他の方の体験談を読むと、私は遅いぐらいかもしれません。
また、自分が書く場所とは別に、指導教授の先生に書いて頂く箇所もあります。
当然、記入のお願いは早めにしておくべきです。
特に、「評価書」については、
何を書いて欲しいのか前もって先生と打ち合わせておくと、
自分で書く「アピールポイント」と矛盾なく仕上げることができます。




② 悩んだ点1:文系の、図表の入れ方

参考書や体験談は、とにかく「わかりやすく」見せるために図表を入れるように勧めています。が、私は 文章以外には楽譜くらいしか扱わない分野なので、
「何を図表にするべきか」に迷いました

私が採用したのは、
「専門外の人に、文章で理解してもらうのが難しいこと」こそ、図表で表す!
ということです。

例として、私の before(初稿) / after(提出版)をご紹介します。

ここでの目的は、研究テーマの核である、
「朗唱」がオペラの歴史の中でどのように変遷してきたか
を手短に説明することです。


before: 文章のみ

オペラには、劇を進行させる会話部分に用いられるレチタティーヴォ(=朗唱)と、アリア等のより音楽的な歌唱が
形式的に分かれて存在し、その比重は時代と共に変遷してきた。
19世紀に両者が融合し、朗唱と歌唱が混じり合ったシェーナという音楽形態が生まれた。


・・・必要情報を最大限に凝縮した文章ではありますが、
専門外の審査員には「なんじゃこりゃ? とりあえず面白くなさそう」と思われても仕方ないばかりか、次の文章を読まない限り、何に注目しているのかが伝わりにくいですね。

添削で指摘を受け、図を取り入れたのが after バージョンです。


after: 短い文章+図
語る様に歌う朗唱と、歌唱の作品内における比重は時代によって変化し、
19 世紀以降には、両者が融合したシェーナ scena という音楽形態が多用されるようになった。

林2221

※画質が粗くなってしまいすみません・・・


図にしたことで、申請者が「オペラ作品における朗唱と歌唱」に興味があり、
中でも19世紀を対象にすることが、一目で伝わります。
内容を深く理解してもらう前に、この「なんとなく把握できる」という好印象を持ってもらうことが大切です。

また、これは全体に言えることなのですが、
「図表を用いても構いませんので、わかりやすく記述してください」という但し書き=「図表を用いてわかりやすく説明しなさい」と捉るべきです
但し書きは、そのまま審査員が知りたいこと、と考えると間違い無いでしょう。



② 悩んだ点2:研究背景はどの程度説明すべき?

当然、どの研究にもその着想に至るまでの膨大な先行研究など背景があります。
しかし、限られたスペースや、審査員が1つの申請書にかける時間を考慮すると、
あまりミクロな背景ばかり書いても仕方がない。
審査されるのは、「あなたは何をやりますか?」という一点です。

実は私自身、それを簡潔に言葉にすることが苦手です
テーマの周りから説明しているうちに、
本当に自分がワクワクする研究の「核」をうまく伝えられない
という悩みがありました。

そこで活用したのが、「ブレインストーミングです。
自分の研究について、自分が知っていること、何が面白いのか、何が好きなのかを
洗いざらい書き出す作業です。
そこで出てきた無数の言葉(word数ページ分集まりました)から、
自分が本当に面白い!ワクワクする!と思えるキーワードを選び出し、
組み合わせて文章を作って
いきました。

これは、考えをまとめる事に非常に効果的であるだけでなく、
自分の意欲を高め、無駄な言葉を省く方法でもあります。
自動的に、研究の背景についても、必要最低限の記述に絞られてきます。
ついでに、研究の題目を考える際にも有効ですので、是非ともやってみてください。


・・・長くなってきました。

後編では、「業績欄」の書き方やレイアウトについて、
お話ししたいと思います。