英語の学術書を読むときのヒント 第1回
2019年05月27日(月)
こんにちは、月曜日11-13時と金曜日15-17時にLALAデスクにいます、ジェンダー社会科学専攻のジャニスです。
今回は2回に分けて、英語で書かれた人文系や社会科学系の学術書を読むときのヒントをご紹介します。[第2回はこちら]
英語で書かれた文章がうまく読めないなあ、というときはいくつか理由があると思います。
英語が第二言語だからうまく読めないことは確かにあります。ただ難解な学術書を読む際、語学力の要素だけを取り出すことは意外と難しいものです。語学力の問題だけではない「困難」を扱うにコツはあります。ここでいう学術書というのは、講義形式の授業で使われる教科書やジャーナリスティックなレポート、エッセイ集、文学作品などとは読み方が異なります。
読みたい本と同じ分野か隣接分野の、ご自身が得意な言語の(たとえば日本語の)本を読んだ経験が、読みたい本を読む助けになることは大いにあります。語学の勉強は続けながら、それと並行して同じ分野やテーマを扱った中高生向けや一般向けの書籍(新書や選書)、学部一年生向けの入門的な教科書といった、自分が比較的読みやすいものを集中的に読んでから難解な専門書に挑戦してみると意外なほど読めたりします。少なくともそうした蓄積なしに読むより、はるかに正確に深く理解できるはずです。
そして英語力も知識も十分についてから読む、ということができればいいのですが、特定の本は今学期あるいは今月、もしくは今週中にどうしても読まなければならないことがあります。そんなときは、どうしたらいいでしょう?
■ 翻訳が出ていないか探してみる。
本一冊すべてが訳されていれば、それを読んでみます。一般に翻訳は原著発表後翻訳時点での日本語圏での最新の研究知見が反映されているものです。あとがきなどで翻訳者やその分野を専門とする研究者による解説があれば、それも読みましょう。もしも当該書籍の翻訳がなくても同じ著者による別の著作の翻訳があるのなら、それを読んでみます。
たとえば過去に雑誌『現代思想』や『思想』、大学の紀要などに、同じ著者による論文や本の抜粋が翻訳されていることがあります。そういった翻訳がないか探してみましょう。翻訳と一緒に「解題」や「解説」が添えられていることもあります。合わせて読んでみましょう。
■ すぐに読まない。
該当書の学説史上の位置づけが分からない。全体的な内容理解が不安だけれど、何から手をつければいいのか分からない。あるいは最初の数段落/数ページで難しすぎて挫折した。量が多くて辛い。日本語の文献でもこんな経験はありませんか(わたしはあるのです)。
そのような場合は、読み始める前に書評を、できれば複数読みます。相手はミステリーやサスペンスのフィクションではありませんからネタバレは問題ありません。書評はほぼ確実にその本の時代的・分野的な位置づけをしています。また内容の要約もされています。当該書をまだ読んでいない人にわかるように書かれ、それ自体独立した文章なわけですから、最初からその本を読むより理解しやすいはずです。タイトルや著者の名前を手掛かりに学術系のデータベースを検索してみましょう。
重要な論文は、当該分野で授業の副読本として使われる論文集などに収められている場合があります。そのような場合、セクションごとに説明が添えられていることがあります。そういった学習者向けの解説は時代や分野の背景を簡潔に説明していることが多く理解の助けになります。
また当該書を発行する出版社のサイトには、販促を目的としてその本の重要性が強調されて提示されています。どの分野において、どういった背景で、この議論の何に新規性があり、なぜ重要であるのかを(ときに過剰に)前面に押し出したコピーです。こうした宣伝文で分からない単語などが使われているのであれば、個別に調べておきましょう。もちろんこの時点で完全に理解できなくてもかまいません。
■ 初めから全部を読もうとしなくてもかまわない。最初から最後まで通して読まなくてもかまわない。
英語の学術書は、過去の論文をまとめて一冊の本になっていることがあります。一冊すべてを読み通すことが難しい場合は、本全体を急いで読んでぼんやりとした理解で諦めるより、所収されているなかで最も評価されている(よく引用される)論文(章)を選び、それを精読した方がよい場合もあります。
もし特定の章がとくに気になるのであれば、その章から読み始めてもかまいません。また巻末のインデックスで自分が気になっている概念をみつけ、その前後から読み始めてもかまいません。よく引用されている箇所があるのであれば、その部分が含まれる章から読みはじめても全く問題ありません。
■ 本全体の構成と、その本が書かれた文脈を知る。
本の副題や、章題には重要な概念(用語)が含まれていることがよくあります。目次を読み、何なら目次を書き写し(書き写した目次はノートを取る際の骨格としても使えます)、分からない単語があればこの時点で調べ、キーワードはその分野の用語集や百科事典等で、意味を確認します。同分野の教科書や入門書が手元にあれば、そうした学習者向けの解説を確認するのもよいでしょう。
お茶大図書館のデータベース・電子リソースの「ものごとを調べる(辞書、辞典、統計・・・)」カテゴリーにあるリソースが助けになるかもしれません。
https://www.lib.ocha.ac.jp/db_resource.html
難解な用語や造語、辞書に載っていない言葉が使われていることもありますが、全体の構成を示すものですから、当該書籍が対象とする読者層にとって見当もつかないことはあまりありません。またなぜその章題がついているのかを考えながら読むことは理解の助けになります。
巻末に参考文献があれば、それも見てみます。文献のなかに知っている著者名や著書・論文はあるでしょうか。もし見慣れないものばかりであれば、少し覚悟が必要かもしれません。逆に、以前から読んでみたいと思っている本が含まれている場合、また参照されている文献の日本語翻訳があれば、そちらを先に読んでみるという手もあります。
では、次回は実際に読んでいきます。
[第2回はこちら]
#アカデミック・リーディング #ジャニス
今回は2回に分けて、英語で書かれた人文系や社会科学系の学術書を読むときのヒントをご紹介します。[第2回はこちら]
英語で書かれた文章がうまく読めないなあ、というときはいくつか理由があると思います。
英語が第二言語だからうまく読めないことは確かにあります。ただ難解な学術書を読む際、語学力の要素だけを取り出すことは意外と難しいものです。語学力の問題だけではない「困難」を扱うにコツはあります。ここでいう学術書というのは、講義形式の授業で使われる教科書やジャーナリスティックなレポート、エッセイ集、文学作品などとは読み方が異なります。
読みたい本と同じ分野か隣接分野の、ご自身が得意な言語の(たとえば日本語の)本を読んだ経験が、読みたい本を読む助けになることは大いにあります。語学の勉強は続けながら、それと並行して同じ分野やテーマを扱った中高生向けや一般向けの書籍(新書や選書)、学部一年生向けの入門的な教科書といった、自分が比較的読みやすいものを集中的に読んでから難解な専門書に挑戦してみると意外なほど読めたりします。少なくともそうした蓄積なしに読むより、はるかに正確に深く理解できるはずです。
そして英語力も知識も十分についてから読む、ということができればいいのですが、特定の本は今学期あるいは今月、もしくは今週中にどうしても読まなければならないことがあります。そんなときは、どうしたらいいでしょう?
■ 翻訳が出ていないか探してみる。
本一冊すべてが訳されていれば、それを読んでみます。一般に翻訳は原著発表後翻訳時点での日本語圏での最新の研究知見が反映されているものです。あとがきなどで翻訳者やその分野を専門とする研究者による解説があれば、それも読みましょう。もしも当該書籍の翻訳がなくても同じ著者による別の著作の翻訳があるのなら、それを読んでみます。
たとえば過去に雑誌『現代思想』や『思想』、大学の紀要などに、同じ著者による論文や本の抜粋が翻訳されていることがあります。そういった翻訳がないか探してみましょう。翻訳と一緒に「解題」や「解説」が添えられていることもあります。合わせて読んでみましょう。
■ すぐに読まない。
該当書の学説史上の位置づけが分からない。全体的な内容理解が不安だけれど、何から手をつければいいのか分からない。あるいは最初の数段落/数ページで難しすぎて挫折した。量が多くて辛い。日本語の文献でもこんな経験はありませんか(わたしはあるのです)。
そのような場合は、読み始める前に書評を、できれば複数読みます。相手はミステリーやサスペンスのフィクションではありませんからネタバレは問題ありません。書評はほぼ確実にその本の時代的・分野的な位置づけをしています。また内容の要約もされています。当該書をまだ読んでいない人にわかるように書かれ、それ自体独立した文章なわけですから、最初からその本を読むより理解しやすいはずです。タイトルや著者の名前を手掛かりに学術系のデータベースを検索してみましょう。
重要な論文は、当該分野で授業の副読本として使われる論文集などに収められている場合があります。そのような場合、セクションごとに説明が添えられていることがあります。そういった学習者向けの解説は時代や分野の背景を簡潔に説明していることが多く理解の助けになります。
また当該書を発行する出版社のサイトには、販促を目的としてその本の重要性が強調されて提示されています。どの分野において、どういった背景で、この議論の何に新規性があり、なぜ重要であるのかを(ときに過剰に)前面に押し出したコピーです。こうした宣伝文で分からない単語などが使われているのであれば、個別に調べておきましょう。もちろんこの時点で完全に理解できなくてもかまいません。
■ 初めから全部を読もうとしなくてもかまわない。最初から最後まで通して読まなくてもかまわない。
英語の学術書は、過去の論文をまとめて一冊の本になっていることがあります。一冊すべてを読み通すことが難しい場合は、本全体を急いで読んでぼんやりとした理解で諦めるより、所収されているなかで最も評価されている(よく引用される)論文(章)を選び、それを精読した方がよい場合もあります。
もし特定の章がとくに気になるのであれば、その章から読み始めてもかまいません。また巻末のインデックスで自分が気になっている概念をみつけ、その前後から読み始めてもかまいません。よく引用されている箇所があるのであれば、その部分が含まれる章から読みはじめても全く問題ありません。
■ 本全体の構成と、その本が書かれた文脈を知る。
本の副題や、章題には重要な概念(用語)が含まれていることがよくあります。目次を読み、何なら目次を書き写し(書き写した目次はノートを取る際の骨格としても使えます)、分からない単語があればこの時点で調べ、キーワードはその分野の用語集や百科事典等で、意味を確認します。同分野の教科書や入門書が手元にあれば、そうした学習者向けの解説を確認するのもよいでしょう。
お茶大図書館のデータベース・電子リソースの「ものごとを調べる(辞書、辞典、統計・・・)」カテゴリーにあるリソースが助けになるかもしれません。
https://www.lib.ocha.ac.jp/db_resource.html
難解な用語や造語、辞書に載っていない言葉が使われていることもありますが、全体の構成を示すものですから、当該書籍が対象とする読者層にとって見当もつかないことはあまりありません。またなぜその章題がついているのかを考えながら読むことは理解の助けになります。
巻末に参考文献があれば、それも見てみます。文献のなかに知っている著者名や著書・論文はあるでしょうか。もし見慣れないものばかりであれば、少し覚悟が必要かもしれません。逆に、以前から読んでみたいと思っている本が含まれている場合、また参照されている文献の日本語翻訳があれば、そちらを先に読んでみるという手もあります。
では、次回は実際に読んでいきます。
[第2回はこちら]
#アカデミック・リーディング #ジャニス