英語の学術書を読むときのヒント 第2回

20190531日(金)
こんにちは、月曜日11-13時と金曜日15-17時にLALAデスクにいます、ジェンダー社会科学専攻のジャニスです。

前回に引き続き、英語で書かれた人文系や社会科学系の学術書を読むときのヒントをいくつかご紹介します。

■ 本全体の内容をつかむために序章を読む。
Introductionと題された章(序章)はあるでしょうか。もし非常に急いで特定の章を読まなければならないというのでなければ、そこをまずは読んでみます。序章は必ずしも分かりやすいとは限りませんが、英語の文章構成の決まりで重要な要素がすべて詰まっています。

序章には何よりもまず、この本全体の問いが何なのかが書かれているはずです。そこを探すつもりで読みます。最初に読んで難しいのなら、あとの章を読み終わって戻ってくればよいので、諦めてはいけません(著者はきっと序章をすべてを書き終わったあとに書いているはずです!)。そして本の内容を説明しようとしている箇所(とくに一人称単数の代名詞が出てくるところやタイトルなど本全体を指すところ)を見つけていきます。

またIntroductionの最後に、一般的には本全体の章構成がまとめられています。この部分は各章を読み始める前に、たちもどって読んでみると理解の助けになるはずです。そしてこの部分のすぐ手前に、本全体を通じた主張や研究課題が比較的短く述べられている可能性が高いので、その部分にも注目しておきましょう。

典型的な序章の構成は次のようなものです。そして、このなかで最も注目すべきは2になります。
0. エピグラフ(本や章の初めに記される短い引用文など)
1. 著者が当該書を書くにいたった社会的・学問的な背景
2. 当該書全体の問いや主張
3. 全体の章構成

序章の前にPrefaceがあれば、それも読んでみるのもいいでしょう。ただしPrefaceは抽象的であったり初読では難しく感じることが多かったりするので、後回しにしてもかまいません。

■ 理論や分析枠、先行研究についての章を読む。

多くの学術書では先行研究や理論についての章が序章のすぐ後に続きます。ここでは先行研究や理論が何をどう検討し論じたのか、何をどう検討せず論じなかったのか、そうした先行研究に対して著者はどういう立場を取っており、当該書はどのように位置づけられるのかが書かれているはずです。

本全体のキー概念となる言葉は、たいていこの部分に出てきます。初めて紹介されるときには、当該書が依拠する定義が提示されるので、そこに注目します。あとの章を読む際すぐ参照できるように手元に書き出してもよいでしょう。

通常分析の枠組みとして参照される理論は一冊とおしてそれほど多くないはずですが、全く縁のない理論家が出てきて圧倒されそうになるかもしれません。すでによく知られた理論家なのであれば、当該書と並行して入門書を読む必要があるかもしれません。

■ 3章目以降の各論を読む。
先行研究や理論についての章が終わると、そのあとに各論が続きます。各章の簡潔なまとめは序章終わりの章構成を説明した箇所にも書かれている可能性が高いので読み始める前に確認しておきましょう。

各章が参照している国や地域があればその場所についての概説を、歴史的背景や出来事が対象なのであれば事実関係を確認してから読み進めたほうが理解しやすくなります。高校生や一般向けの世界史の解説書やドキュメンタリー映像なども助けになります。また分析対象となっている映画を見たり、小説を読んだり、取り上げられているアート作品について調べることは必須ではありませんが、内容をきちんと理解したいのであれば、そうした作業が追加で必要になるかもしれません。

そしてその本が教科書的なものであればかならず、そうでなくてもおそらく、各章にはまとめの節や段落があるはずです。急いでいるときは先にそれを探して読む方法もあります。

各章の終わりには、次章への橋渡しとなるような文があるはずです。ロジックを追う上で重要な部分なので、注意して読みましょう。

■ 終章を読み序章に戻る。
学術書の最後を締める章は、本全体を通したそれまでの議論全体のまとめをしている場合が多いのですが、ここにきて読者に議論全体を俯瞰するよう観点の転換を迫り、ほとんど初めてとしか思えない議論を持ち出すタイプのものがあります。

終章を読んだら再度序章を読み返してみます。序章には終章をそのように書かなければならない理由が書かれているはずです。冒頭にエピグラフがあればそれを含めて読み返し、本全体の主張や研究課題を再度確認してみます。どうでしょう。序章で提起された問題にこの本は答えていたでしょうか。

ここまできて一読者であるあなたが読み取ったところの提起された問題は何で、それに対して著者がどのように答えたのか、という部分をまとめると、本全体の要旨になるはずです。この要旨は、先に読んだ書評の要約や、出版社が宣伝文句にしていたコピーと合致するでしょうか(理論的には一致するはずですが…)。

■ いまの自分自身をこえて読んだものを共有する。
だれかの書評や翻訳、解題や解説、紹介文、そういったものには、あなたと同じ本を読んだ、別の読者の解釈を含めた理解が示されています。読書はそのときどきの読者一人きりで完結するものではありません。

その本を読むことになった理由はゼミで報告するためだったかもしれませんし、論文やレポートを書くためだったかもしれませんが、そうした目的以上に、書かれていたことはあったはずですし、ご自身が読み取り考えたこともあったはずです。そうしたことを書き残しておくのは(時間や労力を要するのでなかなかできなかったりするものですが)おすすめです。もし目次を書き出していたら、それを骨組みにして、章ごとのまとめや疑問点を書いておくのもよいでしょう。

いまのご自身の記録は人と共有するためや、大学での課題のためだけでなく、何年先であっても、未来のあなたが再び思索を深めるとき、必ず助けになります。

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