リサーチペーパーの始め方 (1):下調べのまえに

20190729日(月)
こんにちは、月曜日11-13時と金曜日15-17時にLALAデスクにいます、ジェンダー社会科学専攻のジャニスです。

アカデミック・ライティング全般についての解説は書籍やウェブサイトが多くあります。LALA文庫にも参考図書が揃っています。

ウェブ上だと、たとえば「名古屋大学生のためのアカデミック・スキルズ」のサイトには、「レポートの構成とパラグラフ・ライティングを知る」と題された解説ページがあり、参考になります。

注意しておきたいのは、授業課題の場合、教員が期待するものにはかなりのバリエーションがあるということです。課題が出された時点では気づかず、取りかかってみたら指示が曖昧であったと判明する場合もあります。体裁や様式を含め些細なことに思えても、分からないことや聞き逃してしまったことは、提出前に(可能であれば課題に取りかかる前に)、担当教員に直接確認するようにしましょう。

とはいえ、一般的なリサーチペーパーの書き方というものもあります。今回は、二次文献を使ったリサーチペーパーの取りかかり方を紹介します。このようなリサーチペーパーを書くことは、卒業論文などの論文執筆のまえに、研究テーマについての背景を調べて考察を深めるのにも有効です。

● リサーチペーパーの始め方 目次
第1回 下調べのまえに
第2回 資料を特定する
第3回 全体の構成を考える
第4回 スケジュールを考える

1回目は主題の立て方を考えます。
と、そのまえに留意しておいた方がよいことをひとつ。

リサーチペーパーというからには調べものをするのですが、その調べものを始めるまえに自分が考えたことや知っていたことというのも、じつは重要になります。というのは、その特定のトピックについて生半可な知識や関心しかないとはいえこのようなリサーチペーパーを書こうという知的探究心と潜在的な理解力を備えた人物は、理想的な読者だからです。

ですから、書く内容を考えること、たとえばここから紹介する作業は、すべて図書館やインターネットでの調べものを始めるまえに(も)取り組み、記録しておくとあとで役に立つことがあります。

■ 考えていることを言葉にしていく
アカデミック・ライティングを解説する本では、考えていることを言葉にする方法として、一般にブレインストーミングやフリーライティング、マインドマップなどが紹介されています。

そのほかの方法としては、他の人と話してみるというのも効果があります。一人で考えていて進捗がないから教員に報告できない…と悩むことがあるかもしれませんが(よく分かります…)、そんなときほど相談にいくことで進捗が生まれたりします。オフィスアワーやアポイントメントを取って話にいきましょう。(LALAデスクも利用してください。)

■ 考えを整理する
ブレインストーミングからつながりや分類を考えていくための方法としてはKJ法があります。関心のある方は、中央公論社から出ている川喜田二郎『発想法』『続・発想法』を見てみてください。(お茶大図書館では文庫・新書コーナーにあり、請求番号は336/Ka94と336/Ka94/2、改版は336/Ka94cです)

KJ法ほど体系化されていなくても次のような作業をしている人は多いのではないでしょうか。
● カードや付箋を使う→並べ替えて分類やつながりを探す
● ホワイトボードや大きめの紙を使い、図解してみる
● 箇条書きで並べていく
● フリーライティング(間違いなどを気にせず、文のかたちで思うままに書く)


またアイデアをふくらませる方法としては、テーマから思いつくことを挙げていく以外に次のような切り口が考えられます。
● 具体的なことや個別事例を挙げる→共通項や違いを見つける
● 対立項目や対義語にあたるもの、似ているが異なるものを挙げる
● 原因と結果に分けて考えてみる
● 相関関係と因果関係を区別してみる
● 時間軸で考える:順番や段階なのか、同時なのか、オーバーラップしているのか…
● 空間軸で考える:序列はあるのか、水平あるいは垂直なのか、相互排他的なのか…


ブレインストーミングやフリーライティングなどの考えを言葉にして整理していく作業は最初だけではなく、繰り返し立ち戻ってやってみるのがおすすめです。

■ 主題を問いから考える
もしかしたらトピックやテーマはすでに与えられているかもしれません。あるいはすでに頭のなかにあるかもしれません。このときにどこからどう考えればいいのかわからない場合は、(無理やりにでも)質問のかたちにしてみるというのも一つの方法です。質問は一つとは限りません。思いつくものをあげてみましょう。たとえば…

「男性性」をテーマに考える場合:
● 男性性研究はいつから始まり、どの分野の研究者がどのような問いを立ててきたのか。
● 日本の男性性研究の限界や主流の男性性研究に対する批判にはどのようなものがあるか。
● 〇〇という研究者は、男性性をシスジェンダーの男性に帰属する性質とするが、それはなぜか。
● 〇〇であることは男性的とされるが、それが特定の民族や階級の特徴ではなく、ジェンダーによる差異であるといえるのはなぜか。
● 現代日本社会における男性性にかんする問題にはどのようなものがあり、そのうち何が最も重要なのか。またそれはなぜか。
● 『〇〇〇〇』という漫画とそれを原作とした実写映画にみられる男性キャラクター表象にはずれがあるが、そのいずれもが男性とされるのはなぜか。


「性暴力」をテーマに考える場合:
● 性暴力とはどのような暴力のことをいい、どのような分類が可能なのか。
● 性暴力にまつわる言葉遣いに時代や文脈、含意に差異があるとすればなにか。
● 日本における性暴力事件をめぐる過去の判例において、どの法律が根拠とされてきたのか。またその法律の規定における××の面での限界はなにか。
● 性暴力は人権を侵害しているというとき、そこにはどのような原則が前提されたうえでそれが侵害されているといわれているのか。
● 性暴力にまつわる近年の××運動は過去の〇〇運動とは、その背景や関わった人々、その運動がもつ影響について、どのような共通点や相違点があるのか。
● 〇〇年代の〇〇賞受賞小説作品において性暴力の深刻さはどのようには語られたのか、あるいは語られなかったのか。
● 〇〇という出来事は「性暴力」とはされないが、それはなぜか。


問いを立てるときは、Whatや Whoの問い「〇〇とはなにか」「〇〇と××の関係や構造はなにか」「〇〇に当てはまるのはどれか」というかたちでは書くべきことがみえてこない場合は、Why(根拠や原因)やHow(方法や手続き)の問い「なぜ〇〇は××なのか」「どのように〇〇は××になったのか」と考えてみます。
またこうした問いの記述そのものを問う「なぜ〇〇は××といえるのか」「どのように〇〇といえるのか」を考えると具体的に書くための問いにつなげやすくなります。

■ なぜそれについて書くのかを考える

すぐに質問のかたちにするのが難しい場合は、自分自身が、なぜ(いまここで)そのことについて書くのかを考えてみましょう。たとえば次のような問いへの自分なりの答えを考えてみます。

● どのような社会的・学問的要請を背景として〇〇を論じる意義があるといえるのか。
● 〇〇は××であるとは常識として受け入れられているのに、なぜ〇〇が××なのか、という問いを立てることが可能なのはなぜか。
● いかにして私は/〇〇という研究者は、このテーマに関心をもつにいたったのか。
● なぜこの研究対象を選び、かつ〇〇の側面に着目するのか。
● 〇〇という問題はすでに解決しているとされているのに、ここで論じるのはなぜか。
● 〇〇という事象については様々な問題があるのに、××がとくに重要なのはなぜか。
● 〇〇という課題については一般には××が取り上げられるが、ここで△△に注目するのはなぜか。


ここまで考えたら、リサーチを始めます。

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