リサーチペーパーの始め方 (3):全体の構成を考える
2019年08月02日(金)
こんにちは、月曜日11-13時と金曜日15-17時にLALAデスクにいます、ジェンダー社会科学専攻のジャニスです。
● リサーチペーパーの始め方 目次
第1回 下調べのまえに
第2回 資料を特定する
第3回 全体の構成を考える
第4回 スケジュールを考える
リサーチペーパーの始め方第3回は、文章の全体像を考えます。
リサーチペーパーは、アカデミックな書き手と読み手のいる一続きの文章ですから、調べたことを箇条書きにしたものとは異なります。主題文があり、それを支える根拠がロジカルに一貫性をもって示される必要があります。根拠には、事実を支える証拠と意見を支える論拠があり、こうした根拠を、ここでいうリサーチペーパーでは主に二次文献から引き出していきます。
■ 全体をシンプルに考える
文章全体の構成を単純にすると、問題の所在を論じた序論の最後に主題文があり、その後主題文を支える根拠(ときには事例や着眼点、想定反対意見への反証)が複数示され、最後にまとめとして結論がおかれます。
⭐︎序論
● 背景の説明:なぜこのトピックをこのように扱うのか
● 主題文:文章全体でイイタイコト
● 本論の構成
⭐︎本論
● 根拠1/事例1/着眼点1/想定反対意見への反証1
● 根拠2/事例2/着眼点2/想定反対意見への反証2
● 根拠3/事例3/着眼点3/想定反対意見への反証3
⭐︎結論
● 主題文の再提示
じっさいのリサーチペーパーはそれほど単純な構成にはならないかもしれません。ただ複雑に考えすぎて自分でも分かりづらいと感じるときは、一度コアの枠組みを取り出して組み立てをシンプルに考えてみると議論を引き締め、何が言いたいのかをはっきりさせることができます。
■ 主題文を書いてみる
主題文は、調べて考え書いていくうちに変化します。理想的には、リサーチが進めば、より明確に簡潔になっていきます。最初の段階での質について心配する必要はありません。とりあえず主題文を書いてみます。日本語なら80字で、英語なら25単語で、この文章全体を通してイイタイコトを言い切る練習と思ってやってみます。
ただ、どうしてもうまく書けない場合は、いったん諦め、全体でどういうことを書くのかを文章で書く作業や、アウトラインを書く作業に移ります。
■ 全体でどういうことを書くのかを文章で書いてみる
80字で主題文を書くのが難しい場合は、400から600字で序論の導入部分を書いてみます(英語なら250単語)。問題の所在を論じる部分になりますが、もしもピンとこなければ、次のような要素を意識してみます。(この部分は、序論の前半部分の下書きになります。)
● このトピックについて一般的に(あるいは特定の学問領域で)言われていることや分かっていること、あるいは「常識」は何か。
● このトピックを扱う際の切り口(テーマ)としてはどのようなものがあり、そのなかでも重要なのは何か。またなぜそれが重要なのか。
● この「常識」やテーマの重要性を認識したうえで、これまで間違っていたり分析が甘かったり見落とされたりしていたことは何か。
● そこから、このペーパーで調べたいことは何か。
● この疑問点を、どのように(何を対象とし、どの部分や要素に着目して)調べるのか。たとえばどの国や地域、時代、作品群や作家名、製品や成分の、何をどう調べるのか。
● 調べた結果として言えること(根拠をもって言えそうなこと)は何になるのか。
この導入部分の最後の方に、リサーチペーパー全体の主題や主張にあたる部分(主題文)が出てくるはずです。
■ アウトラインを書いてみる
仮の主題文と導入部分が書けたら、章や節、そして段落の構成を考えます。先に書いた全体の構成のなかで、本論にあたる部分、主題文を支える根拠(ときには事例や着眼点、想定反対意見への反証)の提示の仕方を考えます。
そして、最も説得力をもって主題文を支えるよう、このリサーチペーパーでカバーする論点を構成します。
とくに歴史的な事件、あるいは映画や小説について分析するときに陥りやすい失敗は、その文章自体の構成が、対象とした事件の時系列や作品の展開に引きずられ、焦点がぼやけてしまうというものです。リサーチペーパーにしろ、他の文章にしろ、調査や分析の対象そのもの構造を含めた理解は重要ですが、その理解をもとに文章として書く際には、対象そのものの構成に逆らう必要もあることは覚えておいた方がよいでしょう。
リサーチペーパーとして書ける量には制限があるはずです。目安としては、たとえば序論1・本論3・結論1の割合で4000字書くとしたら、1単位(文章全体の1/5)は800字になります。序論の前半はすでに書いたので(問題の所在と主題文)、序論の後半では本論の構成を200から400字で書くことになります。この本論の構成部分を簡潔に書くと、アウトラインの骨組みになります。
この時点でのアウトラインは小見出しに近いものになります。リサーチが進み、考察が深まってくれば、このアウトラインは各段落の主意を伝えるトピックセンテンスに近いものになります。ですがこの時点では、小見出しを並べたものであったり、箇条書きに近かったり、項目の羅列であってもかまいません。
■ アウトラインに合わせて参考文献リストを書く
全体を5に分け、そのうち3を本論に割くとします。仮に論点が3つだったとしてそれぞれの論点を支える文献(根拠や事例、着眼点、本文で批判する反対意見)がそれぞれあるはずです。一つの文献が二つ以上の論点を支えている場合もあります。
アウトラインとざっくりと照らし合わせ、各論点にかかわる文献をあげてみます。文献が不足している部分があるなら、自分で調べる以外に、担当教員や図書館で相談するとよいでしょう。
◆ 主題文:〇〇は××だ。
◆ 論点1:なぜなら〇〇は××の一つである△△だからだ。
参照する文献:文献A(根拠1と事例1)、文献B(事例2)
◆ 論点2:〇〇は□□を条件とするが、この□□という条件を支えているのが実は××でもある。
参照する文献:文献A(着眼点)
◆ 論点3:一方〇〇は××ではないという意見があるが、それは〜〜という理由で当てはまらない。
参照する文献:文献C(反対意見)、文献D(文献Cの意見に対する批判で自分自身が同意するもの)
もしこのように文献を使う予定であれば、文献AからDすべてを参考文献リストに入れます。
参考文献リストの作り方は、その分野によって違います。初めて作る場合や様式に不安がある場合は、こちらのサイトが参考になります。
構想段階の文献リストは、それぞれの概要を知ったうえで、押さえておくべきもの、使えそうなものをあげておきます。リストにあげた文献すべてを完全に理解し読みおわっている必要はありません。丁寧に読んでみたら使えない文献というのもあります。最終稿で参照しないものがこの時点で入っていても(不要ならばあとで抜けばよいので)全くかまいません。
■ 仮のタイトルをつけてみる
「問題の所在」、「主題文」、本論の構成を示した「アウトライン」、現時点での「参考文献リスト」を書けたら、リサーチペーパーの「タイトル」をつけてみます。こたえは「問題の所在」や「主題文」のなかにあるはずです。
「タイトル」のつけかたは、これも担当教員によって期待されるものが異なります。疑問形にすべきとされたり、文字制限があったりします。よくある「〇〇についての考察」が認められない場合もあります。授業課題としてリサーチペーパーを提出する場合には、最終的につけるタイトルの要件について担当教員に確認しておきましょう。
■ 他の人の意見を聞く
ここまでの作業をまとめA4用紙2ページ以内に仕上げてみましょう。項目としては、次の5項目になります。
1. タイトル
2. 問題の所在(400-600字、英語なら250単語)
3. 主題文(80字、英語なら25単語)
4. アウトライン
5. 参考文献リスト
リサーチをさらに進め本文を書き始める前に、このアウトラインをベースに、他の人と話してみることをおすすめします。可能なら担当教員に、難しければ信頼できる勉強仲間やLALAデスクに相談してみてください。
次回はスケジュールについて考えます。
リサーチペーパーの始め方 [第1回] [第2回] [第4回]
#ジャニス #レポート・論文
● リサーチペーパーの始め方 目次
第1回 下調べのまえに
第2回 資料を特定する
第3回 全体の構成を考える
第4回 スケジュールを考える
リサーチペーパーの始め方第3回は、文章の全体像を考えます。
リサーチペーパーは、アカデミックな書き手と読み手のいる一続きの文章ですから、調べたことを箇条書きにしたものとは異なります。主題文があり、それを支える根拠がロジカルに一貫性をもって示される必要があります。根拠には、事実を支える証拠と意見を支える論拠があり、こうした根拠を、ここでいうリサーチペーパーでは主に二次文献から引き出していきます。
■ 全体をシンプルに考える
文章全体の構成を単純にすると、問題の所在を論じた序論の最後に主題文があり、その後主題文を支える根拠(ときには事例や着眼点、想定反対意見への反証)が複数示され、最後にまとめとして結論がおかれます。
⭐︎序論
● 背景の説明:なぜこのトピックをこのように扱うのか
● 主題文:文章全体でイイタイコト
● 本論の構成
⭐︎本論
● 根拠1/事例1/着眼点1/想定反対意見への反証1
● 根拠2/事例2/着眼点2/想定反対意見への反証2
● 根拠3/事例3/着眼点3/想定反対意見への反証3
⭐︎結論
● 主題文の再提示
じっさいのリサーチペーパーはそれほど単純な構成にはならないかもしれません。ただ複雑に考えすぎて自分でも分かりづらいと感じるときは、一度コアの枠組みを取り出して組み立てをシンプルに考えてみると議論を引き締め、何が言いたいのかをはっきりさせることができます。
■ 主題文を書いてみる
主題文は、調べて考え書いていくうちに変化します。理想的には、リサーチが進めば、より明確に簡潔になっていきます。最初の段階での質について心配する必要はありません。とりあえず主題文を書いてみます。日本語なら80字で、英語なら25単語で、この文章全体を通してイイタイコトを言い切る練習と思ってやってみます。
ただ、どうしてもうまく書けない場合は、いったん諦め、全体でどういうことを書くのかを文章で書く作業や、アウトラインを書く作業に移ります。
■ 全体でどういうことを書くのかを文章で書いてみる
80字で主題文を書くのが難しい場合は、400から600字で序論の導入部分を書いてみます(英語なら250単語)。問題の所在を論じる部分になりますが、もしもピンとこなければ、次のような要素を意識してみます。(この部分は、序論の前半部分の下書きになります。)
● このトピックについて一般的に(あるいは特定の学問領域で)言われていることや分かっていること、あるいは「常識」は何か。
● このトピックを扱う際の切り口(テーマ)としてはどのようなものがあり、そのなかでも重要なのは何か。またなぜそれが重要なのか。
● この「常識」やテーマの重要性を認識したうえで、これまで間違っていたり分析が甘かったり見落とされたりしていたことは何か。
● そこから、このペーパーで調べたいことは何か。
● この疑問点を、どのように(何を対象とし、どの部分や要素に着目して)調べるのか。たとえばどの国や地域、時代、作品群や作家名、製品や成分の、何をどう調べるのか。
● 調べた結果として言えること(根拠をもって言えそうなこと)は何になるのか。
この導入部分の最後の方に、リサーチペーパー全体の主題や主張にあたる部分(主題文)が出てくるはずです。
■ アウトラインを書いてみる
仮の主題文と導入部分が書けたら、章や節、そして段落の構成を考えます。先に書いた全体の構成のなかで、本論にあたる部分、主題文を支える根拠(ときには事例や着眼点、想定反対意見への反証)の提示の仕方を考えます。
そして、最も説得力をもって主題文を支えるよう、このリサーチペーパーでカバーする論点を構成します。
とくに歴史的な事件、あるいは映画や小説について分析するときに陥りやすい失敗は、その文章自体の構成が、対象とした事件の時系列や作品の展開に引きずられ、焦点がぼやけてしまうというものです。リサーチペーパーにしろ、他の文章にしろ、調査や分析の対象そのもの構造を含めた理解は重要ですが、その理解をもとに文章として書く際には、対象そのものの構成に逆らう必要もあることは覚えておいた方がよいでしょう。
リサーチペーパーとして書ける量には制限があるはずです。目安としては、たとえば序論1・本論3・結論1の割合で4000字書くとしたら、1単位(文章全体の1/5)は800字になります。序論の前半はすでに書いたので(問題の所在と主題文)、序論の後半では本論の構成を200から400字で書くことになります。この本論の構成部分を簡潔に書くと、アウトラインの骨組みになります。
この時点でのアウトラインは小見出しに近いものになります。リサーチが進み、考察が深まってくれば、このアウトラインは各段落の主意を伝えるトピックセンテンスに近いものになります。ですがこの時点では、小見出しを並べたものであったり、箇条書きに近かったり、項目の羅列であってもかまいません。
■ アウトラインに合わせて参考文献リストを書く
全体を5に分け、そのうち3を本論に割くとします。仮に論点が3つだったとしてそれぞれの論点を支える文献(根拠や事例、着眼点、本文で批判する反対意見)がそれぞれあるはずです。一つの文献が二つ以上の論点を支えている場合もあります。
アウトラインとざっくりと照らし合わせ、各論点にかかわる文献をあげてみます。文献が不足している部分があるなら、自分で調べる以外に、担当教員や図書館で相談するとよいでしょう。
◆ 主題文:〇〇は××だ。
◆ 論点1:なぜなら〇〇は××の一つである△△だからだ。
参照する文献:文献A(根拠1と事例1)、文献B(事例2)
◆ 論点2:〇〇は□□を条件とするが、この□□という条件を支えているのが実は××でもある。
参照する文献:文献A(着眼点)
◆ 論点3:一方〇〇は××ではないという意見があるが、それは〜〜という理由で当てはまらない。
参照する文献:文献C(反対意見)、文献D(文献Cの意見に対する批判で自分自身が同意するもの)
もしこのように文献を使う予定であれば、文献AからDすべてを参考文献リストに入れます。
参考文献リストの作り方は、その分野によって違います。初めて作る場合や様式に不安がある場合は、こちらのサイトが参考になります。
構想段階の文献リストは、それぞれの概要を知ったうえで、押さえておくべきもの、使えそうなものをあげておきます。リストにあげた文献すべてを完全に理解し読みおわっている必要はありません。丁寧に読んでみたら使えない文献というのもあります。最終稿で参照しないものがこの時点で入っていても(不要ならばあとで抜けばよいので)全くかまいません。
■ 仮のタイトルをつけてみる
「問題の所在」、「主題文」、本論の構成を示した「アウトライン」、現時点での「参考文献リスト」を書けたら、リサーチペーパーの「タイトル」をつけてみます。こたえは「問題の所在」や「主題文」のなかにあるはずです。
「タイトル」のつけかたは、これも担当教員によって期待されるものが異なります。疑問形にすべきとされたり、文字制限があったりします。よくある「〇〇についての考察」が認められない場合もあります。授業課題としてリサーチペーパーを提出する場合には、最終的につけるタイトルの要件について担当教員に確認しておきましょう。
■ 他の人の意見を聞く
ここまでの作業をまとめA4用紙2ページ以内に仕上げてみましょう。項目としては、次の5項目になります。
1. タイトル
2. 問題の所在(400-600字、英語なら250単語)
3. 主題文(80字、英語なら25単語)
4. アウトライン
5. 参考文献リスト
リサーチをさらに進め本文を書き始める前に、このアウトラインをベースに、他の人と話してみることをおすすめします。可能なら担当教員に、難しければ信頼できる勉強仲間やLALAデスクに相談してみてください。
次回はスケジュールについて考えます。
リサーチペーパーの始め方 [第1回] [第2回] [第4回]
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